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もうLOVEっ!ハニー!
第18章 砂の城を守って
「かんな、酔った? ビニールいる?」
優しいのです。
首を小さく振ろうとしたが、ビニールは欲しい。
すぐにルカが後ろから新しいビニールを引き抜いて、パスされた尚哉から手渡される。
口元に当てて、ヒューッヒューッと息をする。
「パーキング寄ろうか」
「……だい、じょうぶです」
試合に遅れる訳にはいきません。
丸めた背中を尚哉がシート越しにさする。
温かくて、安心する。
今更ながら、このメンバーの安定感に感謝。
「二学期始業式には間に合わなくてもさ、派手に退院を祝いたいね」
「高級焼肉ですね」
「ルカ食べれねえじゃん」
「たまには大量のタンパク摂取しても、簡単に崩れる体じゃありませんから」
「ふふふ」
「あっ、かんな笑ったね。良かった。もうすぐ会場着くからね」
本当に、優しい人たち。
夏休みに入ってからあまりに嬉しいことと最悪なことにサンドされて、普通の幸せを味わうことを忘れていました。
前回よりも気持ちは晴れやかです。
もう、寮に帰っても、あの男はいない。
今日の試合を労って、ガク先輩とたくさんハグするんですから。
駐車場に降り立つと、汐里が大きく手を振った。
車酔いした亜季を奈己が支えて、陸はそそくさと荷物を下ろしている。
「マリケンは?」
「こばるに応援伝えるって飛んでった 」
隆人は汐里の回答にくすくす笑った。
そういうところが手毬賢らしい。
尚哉だけでなく、皆を支えてる。
「かんな、君も行っていいよ」
「えっ、はい。行ってきます!」
走り出そうとしたかんなを尚哉が引き留める。
「場所、分かってんのかよ」
「あう、地図から探そうと……」
「隆にい、前回と控え室一緒だよな」
「そうだよ」
「かんな、案内するからついてこい」
「あ、ありがとうございます」
手を引いて去っていく尚哉に、奈己が人知れずため息を吐いた。
その道は茨だよ、と。
亜季の背中をさすりつつ、苦く微笑む。
「よーし、残った生徒で荷物を席に運ぼう」
「今日は汁物多いから移動気をつけてな」
男手が減ったことを恨めしく思いつつ、陸は率先して荷物を背負った。
昨晩、内線で美弥と話したのを思い出しながら。
ーボクは屋上で何があったか何となくわかるー
暗く、悲しい声だった。
ーでも誰も知る必要は無いよー
それ以上聞けなかった。