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もうLOVEっ!ハニー!
第18章 砂の城を守って

 ピクリとも動かない手のひらに、両手で手首を掴んで抗議する。
「や、だ……」
 一歩近づいた岳斗が、そのまま唇を重ねた。
 ドクン、ドクンと、血流を感じる。
 触れた舌先が柔らかくて、鼻から高い声が漏れてしまう。
「んっ、ふッ」
 いつもの優しいキスのはずなのに、首から離れぬ大きな手に不安ばかりが押し寄せる。
 唇を舐めながら離れた岳斗は、もう片方の手で自分の腕を掴んで、引き剥がすように手を下ろした。
 まるで、自分の意志とは離れたところで手が暴走したように。
 その顔が少し笑って見えるのは、ポジティブにとらえていいんでしょうか。
「ガク……先輩?」
「はは、ごめんな。こんな色気ないとこ連れ出して、何してんねやろ……」
 ああ、背景があまりに暗いから。
 そのまま闇に溶けてしまいそうで。
 私は焦るようにガク先輩を抱きしめました。
 いつもはすぐに抱き返してくれる両腕が、空中で戸惑っている。
「どした、かんな」
「大丈夫です……大丈夫ですから。きっと」
 言い聞かせるように。
 自分にも言い聞かせるように。
 だってもう脅威は去ったのだから。
「勝ってお祝いしましょうよ」
「せやな……せやねんけど」
 まだ抱き返してくれない。
 目の奥が熱くなる。
 見上げると、視線が合わさった。
 知らなかった。
 こんなに瞳の奥が暗いなんて。
 いつもの笑顔と何かが違う。
 いつから、この目に……。
「なあ、かんな」
 どうして気づかなかったんだろう。
 自分のことばかりで。
 目の前の人が傷ついていることに。
 どうしてもっと早く……。
「俺のこと、ホンマに、好き?」
 それは、予想外で。
 でも、あまりに真っ直ぐ芯まで貫いて。
 見ないふりをしてた私の心を。
 アイスピックのように掘り起こした。
ーいつまで受け身なんだよ、お前ー
 染み出てきたのは、つばるの言葉。
「え……」
 岳斗は自分を鎮めるように深く息を吸って、唇の端から少しすつ吐き出した。
 酸素を脳に送ろうとするように。
「好きに、決まってるじゃないですか」
 ああ、足りない。
 この人の心まで届かない。
 腕を下ろして、向かい合う。
「大好き、ですよ」
 偽りはない。
 偽りは無いはず。
 一緒にいてこんなに満たされる人はいない。
 どうして、そんなことを。
「それが聞けてよかった」
 全然良くない顔で。
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