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もうLOVEっ!ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
朝日を部屋に招き入れようと窓を開けてみれば、既に秋の清々しい空気。
八月が終わろうとしている。
奈己は静かに学園の森を眺めた。
目を閉じて、音楽を脳内に奏でる。
折り返し、か。
早朝の空気は優しく、感情を包み込む。
夜と違ってそこに不安は無い。
バスケ大会では久々に亜季の隣に座って車に乗り、酔ったあとは介抱もしてあげた。
背中を摩った手のひらで自分の髪を撫でる。
「んん……むう」
後ろから可愛い寝言が聞こえて振り返る。
ベッドでもぞもぞと寝返りを打つ亜季。
布団がどさりと床に落ちる。
ため息を吐いて窓を閉めると、かけ直してやろうと思ってベッドに近づいた。
床の布団を両手につまみ、持ち上げる。
しかし、そのままベッドの端に置いた。
だってそこには、無防備にお腹を出して寝る亜季がいたから。
何十回と見てきても、この体の誘惑には惹かれてやまない。
「亜季、風邪引きますよ」
耳元に顔を近づけて囁くと、高い唸りを上げて首を振る。
可愛らしい。
その頬を至極優しく撫でる。
親指でそっと目の下をなぞる。
寝癖ではね散らかした黒髪に、小ぶりな耳。
ぽてっと縦長の小さな唇。
眉だけは威勢を張るようにキリッと整えられて、毎週鏡の前でカミソリを手に四苦八苦しながら努力する姿を思い出す。
ぎしりと軋む音に、亜季の上から見下ろすように四つん這いになっている自分に気づく。
垂れた髪が亜季をくすぐる前に身を起こそう。
すると、その唇が聞きたくない言葉を放った。
「る、かぁ……」
表情筋が仕事を放棄して、心の闇を深めてくるのを静かに感じる。
入学前、両親の自死で真っ白になった髪を最初に褒めたのが亜季だった。
ピアニストとして、親の名に恥じないデビューを果たす半年前のことだった。
用意された全ての舞台を蹴り飛ばし、この学園に逃げてきた。
それでも音楽から離れられない愚かな自分を、この目の前の存在が支えてくれている。
同性に興味があったわけじゃない。
音楽一筋で恋愛に時間を割いたこともない。
ただそのしがらみが解けた時、目の前で心をかっさらった言葉を放ったのが亜季だった。
かけがえのない親友。
ルカに想いを募らせても構いはしない。
いつか自分のものにさえなればいい。
その我慢も、もう一年半。