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もうLOVEっ!ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
掃除の時間になると、女子が複数声をかけてきた。
「つばるくん入院したって本当?」
「いつ復活予定なの?」
「病院どこ」
廊下をモップで綺麗にしながら、なるべく端的に答える。
「本当です。冬頃には退院予定ですが、なんとも。病院は面会できないので……」
女子のうち一人が手を挙げた。
「え、でも彼女なら入れるよね」
「はい?」
「あたしつばると付き合ってるし」
おっと、頭痛が。
モップを落としかけてなんとか意識を保つと、他の二人も続く。
「え、彼女いないっしょ。てかあんたはあり得ない」
「二人とも何言ってるの。つばるくんは私の」
これは避難ですね。
一刻も早くこの人たちから離れないと。
ぺこりと頭を下げても三人は口論に夢中で、こちらを見向きもしなかった。
教室の中から視線を感じる。
何人かの女子が怪訝そうに。
中学の記憶が蘇る。
「あんのボス猿……」
いったい何人に手を出してたんでしょうか。
たかが四ヶ月で。
というか、何故彼女たちは気づかないんでしょうね。
彼女という肩書きがあるのなら、つばるから直接連絡が来ないことに疑問を抱きませんか。
モップのゴミをチリトリと箒で集める。
用具入れに道具をしまいながら思い出す。
そういえば、中学の時よく女子に刺されなかったですね。
なん股しているなんて把握している人もいなかったのでしょうか。
良かった、あんな人に近づかなくて。
優しさなんて錯覚しなくて。
本当に良かった。
そこで自分の苛立ちに気づく。
村山薫とのキスを聞いたように。
いえ、違いますね。
これはただの性に奔放な存在への嫌悪感。
それだけです。
そうに決まってます。
「松園さん、つばるについて聞きたいんだけど」
新たな女子との遭遇に悲鳴が漏れそうになる。
「なんですか」
「今度お見舞い一緒に行ってもいい?」
「ごめんなさい。面会謝絶で私も行けないんです」
さらりと。
嘘をついてしまいました。
早く放課後にならないかな。
半日なのだから掃除は免除してほしい。
早く美しい人たちの挑戦を見たい。
こんなちっぽけな自分に注目を注がないでほしい。
それも最悪の過去に対する詮索で。
ようやく担任が教室に入ってきて、ホームルームを始めた。
安堵の息が机にぶつかった。