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もうLOVEっ!ハニー!
第20章 秘密のシャーベット

 廊下から蘭と茜の話し声がして、ハッと我に帰る。
 危ない。
 ぜんぶ言ってしまうところだった。
 墓場まで持って行くと決めてるのに。
 首を振って、鳴海を見つめる。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫。ちょっと、夏バテ長引いただけだし、そのうち食堂にも戻るから」
「司。ちゃんと聞いて。今ね、司はね、助けが必要だと思う」
 廊下の声が遠ざかって行く。
 でも、日曜の午前に、あの二人が出かけるなんてあるっけ。
 記憶の中の声を聞いたのかな。
「隆人にも汐里にも、誰にも言わないから。今頭を埋め尽くしているものを少し分けてくれない?」
 ああ、そうだ。
 心配かけてるからカウンセリングに呼ばれたんだった。
 スーッと平静を取り戻してきた思考で、返事を考える。
「その、僕、なんか、料理失敗が続いちゃって。自信無くなってたから、もう少し休みたい」
 立ち上がると、意外に鳴海が座ったまま見上げてきた。
「日曜の朝からごめんね。来てくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
「はい。なんか、うん。悩み聞いてもらっちゃって。うん、じゃ、失礼しまーす」
 ふらつかないように扉に向かい、なんとか階段を目指した。
 良かった。
 言わなかった。
 助けなんて求めなかった。
 それで何を守ったんだろう。
  

 司の出て行った医務室で、鳴海はしばらく動けなかった。
 見送りにすら行けなかった。
 学んできたことなんて、どうしたら役に立つんだろう。
 あんなにも傷ついている人間に。
 無力感が寒気に変わる。
 隆人から聞いていた以上だわ。
 あんなに苦しい笑顔は、直視も辛かった。
 誰も真実を語らぬ今回の事件は、隆人と何度も報告書を練った。
 学園側に伝えていいこと、生徒に聞くべきこと。
 病院にもなんども通った。
 つばると清龍は、なぜか吹っ切れたような明るさがあった。
 その比較として司の変化が大きすぎる。
「でも、美弥たちの話だと司が屋上にいた可能性は低いのよね……」
 やっと体が動くようになったので、自分の分の麦茶で喉を湿らせる。
 汐里になんて伝えようかしら。
 入学の時から比べると、ずっと明るくなったはずなのに。
 母親からのネグレクト。
 食事の楽しみを思い出すまでに長くかかった。
 汐里が最初に扉を開いて、料理の趣味を見出した。
 この学園から旅発つ前に、どうにかしてあげたい。
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