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もうLOVEっ!ハニー!
第6章 思惑先回り
 その頃奈己は寮のピアノ室でグランドピアノに身を預けていた。
 弾く前にいつも三分ほどその冷たい面に頬を押し付ける。
 彼の白い髪が窓からの光に煌めき、黒いピアノに麗しく映える。
 瞑っていた目を開けて彼は身を起こした。
 それからゆっくりと指を鍵盤に下ろす。
 唇から小さく息が漏れ、笑みが広がる。
「今日はご機嫌?」
 一言呟いてから両手を舞わせた。
 軽やかな音色が寮に鳴り響く。
 身体全体をしならせて弾く彼の姿は正に圧巻。
 まるで天使が弾いてるみたい、とルカが昔言った。
 彼は四歳の頃から触れてきた楽器を、馬を乗りこなすように息を合わせながら指で叩く。
 脳内に並んだ交響曲の音符を弾き終えた後で、オリジナルのメロディを乗せてアレンジする。
 手を交差しては流れるように、高音まで滑らせていく。
 毎朝と、行事の度に彼はここに来ては曲を奏でる。
「まったく、去年と変わらないね。奈己は。先輩としての自覚はある?」
 ピアノ室の扉にもたれかかった隆人が、呆れ交じりに云う。
 だが、彼の演奏を楽しんだ上での声に鋭さはない。
 それを知っている奈己は満足そうに微笑んで管理人を見た。
「おはようございます、隆にい」
 朝の澄んだ空気を更に透明にする綺麗な声が、波となって部屋を震わす。
「なんでコンクールに出ないの? お前の腕なら」
「ここで気ままに弾く方が性に合ってますから」
 遮るように堂々と言い捨てる。
 背中までの髪を耳にかけて、彼は鍵盤を撫でた。
 指に自ら触れてくるような白い鍵盤。
 この一年で随分気が合ってきたが、まだ十分じゃない。
 毎日触れても分かり合うのは難しい。
 人間もだけど無機物はさらにね。
 奈己は優しく笑んでカバーを被せてピアノを閉じた。
「あら。聴きに来たのにもう終わり?」
 鳴海が顔を出す。
「なるも来てたの?」
「悪い? 職務怠慢は連帯責任なんだから、来なきゃ損でしょ」
「素直に聴きに来たって言えばいいのに」
「うるさい。セクハラよ」
 夫婦漫才のように掛け合いをする二人を横目に奈己は窓から学園を見下ろした。
 入学式のあとにはバスケ試合がある。
 自分も在学生チームに呼ばれた。
 運動部に所属しているわけでもない彼はプロポーションだけで判断されたのだろう。
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