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私、普通の恋愛は無理なんです
第1章 序章
「また、誰かがやらかしたのよ」
私はため息をひとつついてから言った。
声の主は統括部長の里井健司だ。彼が怒鳴ることなど、いつものことだ。今、四十三歳の里井は下積みから這い上がったが超ワンマン。社長は高卒から四十歳で統括部長にまで上り詰めた彼に期待しているらしい。
彼と私は身体だけの関係――つまりセフレ……だ。
すぐに香織が嵐のような扉の中に入った。バンという机を叩く音のあと、シンとした事務所からエアコンに冷やされた冷気が廊下に溢れ出す。恐いくらいの静けさのあと、冷気が再び溢れる。そそくさと香織が給湯室に駆け込んみ、カチャカチャとコーヒーのセットをお盆に載せて事務所に入った。
「大野くん……」と香織が息だけの声で囁いて、システム営業部の方を指差した。大野というのは私のデスクの向かいの新人男子社員だ。
タバコを吸わない里井部長の大好物だ。香織いいところを突いてる。ちょっと笑えてきた。