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独占欲に捕らわれて
第4章 予想外
電車からはたくさんの人が降りてきたが、乗り込む客数も相当なもので、あとから来たふたりに座れる席などなかった。
(慣れててもすしずめ状態はうんざりするわ……)
千聖が内心ため息をつくと、紅玲は千聖を隅に立たせ、盾になるように立った。
「優しいのね」
「なんのことかな?」
紅玲は素知らぬ顔で首を傾げる。それからふたりは駅に着くまでお互いに無言でいた。

駅の外に出ると紅玲は小さく息を吐き、千聖をエスコートする。連れてこられたのは、高級フレンチ。
「ここだよ」
「ここ、高いんじゃ……」
「気にしない気にしない」
千聖が動揺するのもお構い無しに、紅玲は店に入る。品のいい初老のウエイターが、個室に案内してくれる。

「さ、好きなの頼んで」
差し出されたメニュー表には、金額は書いていない。
「ありがとう」
千聖はメニュー表を見ながら、目の前の若者が金持ちだと改めて実感した。だからこそ、こうして一緒にいるわけなのだが。


「チサちゃん決まった?」
「えぇ、決まったわ」
紅玲は千聖から注文を聞き出すと、ウエイターを呼んでまとめて注文してくれた。
「お話は料理が来てからにしようか」
「そうね」
千聖はうなずき、料理が来るのを待った。紅玲は夜景を眺めていて、千聖に話しかけてくる気配はない。おかげで頭の中を整理するのに集中できた。

料理が運ばれてくると、紅玲はようやく千聖に目を向ける。
「それで、なにがあったのかな?」
「実は……私もまだよく分かってないんだけど……」
千聖は前置きをすると、スマホを操作して母親から送られてきた最初のメールを開いた。

「私には年子の兄がいるの。いい歳してまだバイトの、ロクでもない奴なんだけど……。それが借金したって、母からメールが来て……」
千聖はスマホを紅玲に差し出した。紅玲は真剣な顔をしてスマホを見る。
「メールはそれだけじゃないの……」
「ほかを見てもいい?」
「もちろんよ」
千聖がうなずくと、紅玲はスマホを操作してほかのメールも確認していく。
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