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ひと夏の恋……そして……
第16章 すれ違う気持ち
夏樹だからと言おうとした瞬間、痛いほど抱きしめられた。
この抱擁は何なのかわからない。
抱きしめられてうれしいのに、手放しで喜べなかった。

「夏樹?」

「分かってるからそれ以上言うな。これ以上、俺をみじめにさせるな」

強く、強く抱きしめながら、絞り出すような夏樹の声に夏樹が何を考えているのかわかったような気がした。
夏樹はそういう男だから。
それは5年前と変わらない。

「怒鳴ったりして悪かったな。お前の気持ちが固まったのなら俺は何もいえない。お前がそれで幸せなら――俺は何も言えないよな」

夏樹は私から離れて、すべてをあきらめたかのように、そう言葉にして私に背を向けて歩き始めた。
それは終わりを告げる言葉だった。
夏樹はすべてをあきらめ私の前から姿を消す。
私の想いを誤解したまま夏樹は消えていく……

「夏樹待って!夏樹は誤解してる!」

このまま終わりにしたくなくて夏樹に縋る。
私の中では和泉よりも夏樹と一緒に未来を歩きたいと思っていることを知ってほしいと。
だけど神様は意地悪だ。
いつもいつも、大事な時に邪魔をする。


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