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ひと夏の恋……そして……
第21章 流れる時の中で
「こうやって真緒を抱きしめているだけでもいい。それだけで今の俺は幸せなんだ」
私も夏樹の背中に腕を回してお互いの体温を肌で感じる。
そこから伝わる体温を感じれば、そこに夏樹がいると分かる。
私がこの世で一番愛している人。
全てをなかったことにしてもいいぐらいに愛している人の体温を感じて幸せに浸ることができる。
それでも抱かれたいと切に願う。
願うならば心だけではなく身体まで繋がりたいと思ってしまう。
「それだけでいいの?夏樹は私を抱きたいとは思わない?」
意地悪に聞けば、夏樹はどこか寂しそうに笑う。
「夏樹?」
まさかの反応に戸惑う私。
それを感じ取ったのか、夏樹は私の額に自分の額をコツンと当て、ゆっくりと瞼を閉じて言葉にする。
「今はこれだけで良い。全てを奪うの……」
それは静かに、何かを濁すかのように口を閉ざし何も話さなくなった。