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真夏の悪夢
第1章 プロローグ
需要は多くはないが、今でも竹製の籠やざる、それに熊手を求めるお客さんはいる。それらは機械ではできない。どれも、職人が一つ一つ竹から仕上げたものだ。

竹割りを切り口に合わせて真っ直ぐにあて、木づちで叩き、それから手元に引く。すると、プシューと音がして正確に六つに割れる。

これは簡単なことではない。力も要るが、竹の特性が分っていない、竹を同じ幅で裂くことは出来ない。

千葉県館山市のある竹工房では、職人たちが黙々とそれに取組み、材料作りに励んでいる。

その竹工房で、今日、その主である女性の葬儀が営まれた。

「いい人だった」
「子供たちが可愛がってもらった」

葬儀に参列した誰もがそう口にしていた。

故人の名前は浅野(あさの)小枝子(さよこ)、享年70歳。遺影はまだ元気だった3年程前に撮影されたもので、髪には白いものが交じっているが、とても品の良い顔をしている。

「お姉さん、あちらでもお祖父ちゃんが守ってくれるから。」

仏壇には、故人の位牌と共に、どんな時も命がけで守ってくれた祖父、健太郎(けんたろう)の位牌も供えられている。

喪主である故人の妹、朋子(ともこ)はその前で静かに手を併せた。
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