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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第26章 兵部家の一族
電車に揺られながら青々とした山を眺める。帰りがけに瑞恵から持たされたシルクの薄緑色のショールを首に巻き、その滑らかな手触りを芳香はうっとりと確かめる。
ショールは絹紫郎が織ったものを、瑞恵が草木染したものだ。絹紫郎が重要無形文化財保持者(人間国宝)になるほどの腕前の持ち主であることを芳香は幸いにも知らずに、ショールを何度も撫でまわしている。
「薫樹さんのご家族だけあって皆さんすごい方ばかりですね」
「そうかな。すごいと言うより偏っていると言った方がいいだろう」
「ま、まあ、そういう言い方もあるかもしれませんが、皆さん優しくていい人たちで安心しました」
「そうか。それなら良かった。自分自身へのこだわりが強いが他の人には寛容だからね。しかし疲れただろう」
「うーん、ちょっとだけ」
「少し眠るといい」
薫樹は芳香の頭を自分の胸元に引き寄せる。甘酸っぱい柑橘系の香りと森林の香りが交じり、芳香をたちまち眠りに誘う。
「ふわぁ、ちょ、とだけ。すみません……おうどん、美味しかったあ……」
「フフ」
安心して眠る芳香を見つめ、窓の外の流れる景色を眺め、薫樹は早く二人きりになりたいと思っていた。
ショールは絹紫郎が織ったものを、瑞恵が草木染したものだ。絹紫郎が重要無形文化財保持者(人間国宝)になるほどの腕前の持ち主であることを芳香は幸いにも知らずに、ショールを何度も撫でまわしている。
「薫樹さんのご家族だけあって皆さんすごい方ばかりですね」
「そうかな。すごいと言うより偏っていると言った方がいいだろう」
「ま、まあ、そういう言い方もあるかもしれませんが、皆さん優しくていい人たちで安心しました」
「そうか。それなら良かった。自分自身へのこだわりが強いが他の人には寛容だからね。しかし疲れただろう」
「うーん、ちょっとだけ」
「少し眠るといい」
薫樹は芳香の頭を自分の胸元に引き寄せる。甘酸っぱい柑橘系の香りと森林の香りが交じり、芳香をたちまち眠りに誘う。
「ふわぁ、ちょ、とだけ。すみません……おうどん、美味しかったあ……」
「フフ」
安心して眠る芳香を見つめ、窓の外の流れる景色を眺め、薫樹は早く二人きりになりたいと思っていた。