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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第27章 あなたとわたし、そして……
香水王の故ジャン・モロウの事を思い出す。彼は一人娘のクロエを亡くした時、イタリアのメーカーで調香師として活躍していた。クロエが事故に遭い重体だと聞かされ、最高の経済とスピードをもってしても死に目に会えなかった。それ以来、フランスから、妻のマリーから離れず、調香学校の講師という社会の脚光を浴びる場所から裏舞台へと身を潜めた。
「ジャンのようにどこに居ても名香は生み出せるものだから、この『TAMAKI』のようにね」
少し安心した様子の芳香の頭をそっと胸に寄り抱えさせる。
実際、フランスへ行くことに薫樹は魅力を感じていない。断ることにも何の未練もない。しかし芳香の反応を見ると自分の選択は普通ではないのだろうと考えた。だからと言って考えが変わるわけではない。
フランスで仕事をすると、有名になり名声も得られ、今よりも経済的に豊かになるだろう。ただ調香するものが、会社の要望であり、自分の意思がどれだけ通るかはわからない。根本的に日本人の自分とヨーロッパ人の求めるものが違う故に摩擦も多く、おそらくは調香ロボットのようになるだろう。
芳香の麝香に触れ、ボディーシートを作り上げ、芳香との甘い夜のためにルームフレグランスやラブローションを作ったことを思い出す。
「楽しいよ。君といると」
「薫樹さん……」
愛する恋人がいて、親しい友人もでき、まだまだ目標もある。これ以上何も望むことはないと薫樹は満足して芳香の身体を引き寄せた。
二人の間には芳しい香りが満ちている。
「ジャンのようにどこに居ても名香は生み出せるものだから、この『TAMAKI』のようにね」
少し安心した様子の芳香の頭をそっと胸に寄り抱えさせる。
実際、フランスへ行くことに薫樹は魅力を感じていない。断ることにも何の未練もない。しかし芳香の反応を見ると自分の選択は普通ではないのだろうと考えた。だからと言って考えが変わるわけではない。
フランスで仕事をすると、有名になり名声も得られ、今よりも経済的に豊かになるだろう。ただ調香するものが、会社の要望であり、自分の意思がどれだけ通るかはわからない。根本的に日本人の自分とヨーロッパ人の求めるものが違う故に摩擦も多く、おそらくは調香ロボットのようになるだろう。
芳香の麝香に触れ、ボディーシートを作り上げ、芳香との甘い夜のためにルームフレグランスやラブローションを作ったことを思い出す。
「楽しいよ。君といると」
「薫樹さん……」
愛する恋人がいて、親しい友人もでき、まだまだ目標もある。これ以上何も望むことはないと薫樹は満足して芳香の身体を引き寄せた。
二人の間には芳しい香りが満ちている。