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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第1章 第一部 匂ふ兵部卿、薫る中将
「ん?」
研究室から出てきた兵部薫樹は、屋上に続く階段の方から女子社員が慌ててエレベーターのほうへ向かうのが見えた。(なんだ?屋上から降りてきたのか?)
入社して10年になるが屋上で過ごすものなど初めて見る。不審に思ったが、もうすでにエレベーターは下へ向かっている。そこで薫樹は屋上に出てみることにした。
古いペンキの禿げた重い金属製の扉を開けぐるりと見渡すが相変わらずせまっ苦しい。くつろげることなどできない、こんなところで昼を過ごすなんて変わっているなと思っていると、ふと一枚の布切れが目に入った。
「なんだ?手拭いか」
水道のパイプにひっかけてあった手拭いを手に取り眺める。何の変哲もないというか、いまどきの女子社員が持つものにしては地味な一枚のただの布切れだ。薫樹は手拭いを元のパイプに戻そうと思った瞬間に風が吹き、ふわっと布が揺れ鼻先をかすめた。
「んんっ?」
彼は一瞬の放たれた香りを見過ごさなかった。(こ、これは……)
無視することが出来なくなった手拭いを片手に、持ち主を探すことを決心する。
明日また彼女はここに来るかもしれないと思い、手拭いをたたんで持ち帰ることにした。
研究室から出てきた兵部薫樹は、屋上に続く階段の方から女子社員が慌ててエレベーターのほうへ向かうのが見えた。(なんだ?屋上から降りてきたのか?)
入社して10年になるが屋上で過ごすものなど初めて見る。不審に思ったが、もうすでにエレベーターは下へ向かっている。そこで薫樹は屋上に出てみることにした。
古いペンキの禿げた重い金属製の扉を開けぐるりと見渡すが相変わらずせまっ苦しい。くつろげることなどできない、こんなところで昼を過ごすなんて変わっているなと思っていると、ふと一枚の布切れが目に入った。
「なんだ?手拭いか」
水道のパイプにひっかけてあった手拭いを手に取り眺める。何の変哲もないというか、いまどきの女子社員が持つものにしては地味な一枚のただの布切れだ。薫樹は手拭いを元のパイプに戻そうと思った瞬間に風が吹き、ふわっと布が揺れ鼻先をかすめた。
「んんっ?」
彼は一瞬の放たれた香りを見過ごさなかった。(こ、これは……)
無視することが出来なくなった手拭いを片手に、持ち主を探すことを決心する。
明日また彼女はここに来るかもしれないと思い、手拭いをたたんで持ち帰ることにした。