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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第13章 5 デート
 お互いに長い労働時間のおかげでゆっくり会うのは薫樹のマンションで週末だけであったが、芳香の勤める園芸ショップがスーパーの棚卸のため二連休になり、それに合わせて薫樹が有給休暇をとり、外でデートをすることにした。

 どこか行きたいところはあるかと尋ねられていた芳香は少し遠いがハーブ園と答えた。
タクシーで行こうとする薫樹を芳香は慌てて引き留める。

「ここからだと2時間近くかかるし、すっごいお金かかっちゃいますってば!」
「そうなのか? 公共機関を使うと仕事の電話が困るものだから僕は移動をタクシーにしてるんだ」
「はあ、なるほど。今日もお仕事の電話きたりします?」
「うーん。たぶんないだろうけどね」

 公共機関を使わない理由をお金持ちの贅沢だと思っていたが、仕事のためなのだと芳香は納得した。しかし往復4時間近くの交通費は一ヶ月の食費になってしまうことを考えるとやはり賛成しかねる。たとえ薫樹が支払うと言ってくれていてもだ。

「レンタカー借りませんか? 融通きくし」
「レンタカー? 僕は免許持ってないよ」
「あ、そうですか。私、持ってます。今は車持ってないですけど、仕事でも良く乗ってますよ。鉢植えとか苗を運んだりするから」
「ほう。しかし何時間も平気なのか?」
「全然、平気ですよ。運転好きだし」

「ふ、む。じゃあ、芳香の運転でいこう。ゆっくり行っても昼には着くだろう」
「はいっ。楽しみですね。車なに借りようかな。薫樹さんって好みありますか?」
「なんでもいいよ。君の好きな車で」
「そうですか。じゃエコカー借りようかな。低燃費だし」
「ふむ。君はしっかり者だな」
 芳香は恥じらいながらも嬉しそうにはにかんだ。こうして二人で少し長い距離をデートすることになった。
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