この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第2章 2 遍歴
芳香はやっと産業スパイだと疑われていることが分かった。この業界には多い話なので耳にすることはあるが、まさか自分がその対象にされるとは夢にも思わなかった。誤解をされたままだとこの会社に居られなくなるかもしれない。せっかく最後の職場と思い安心していたところだったので失いたくない一心で芳香は意を決し告白する。
「この、この手拭いの匂いは、私の足の匂いです……」
「んん?足?」
眼鏡の位置を掛け直し、薫樹は少し近づき再び観察するように芳香の足先を見る。
「信じられない。この香りは菌の類とは違うものだ、それがなんで……」
ブツブツと考え始める薫樹に芳香は心配そうな視線を送る。彼女はとにかく早く足を洗って職場に戻りたい。
「あの、私、足の匂いがひどいので、ここで洗わせてもらってたんです。すみません、時間が無くなってしまうといけないので、もうよろしいでしょうか」
「え、あ、ああ。わかった。じゃ」
考え事をしながら薫樹は立ち去った。スパイだと疑ったことへの謝罪が一言もないことに芳香は多少憤りを感じたが、自分も怪しまれるような行動をとっているのだと、気を取り直していつものように足を洗うことにした。
「この、この手拭いの匂いは、私の足の匂いです……」
「んん?足?」
眼鏡の位置を掛け直し、薫樹は少し近づき再び観察するように芳香の足先を見る。
「信じられない。この香りは菌の類とは違うものだ、それがなんで……」
ブツブツと考え始める薫樹に芳香は心配そうな視線を送る。彼女はとにかく早く足を洗って職場に戻りたい。
「あの、私、足の匂いがひどいので、ここで洗わせてもらってたんです。すみません、時間が無くなってしまうといけないので、もうよろしいでしょうか」
「え、あ、ああ。わかった。じゃ」
考え事をしながら薫樹は立ち去った。スパイだと疑ったことへの謝罪が一言もないことに芳香は多少憤りを感じたが、自分も怪しまれるような行動をとっているのだと、気を取り直していつものように足を洗うことにした。