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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第15章 第三部 ミント王子
薫樹よりも、もう少し背の高い男が「おや?」と芳香のシューズを拾う。
「あっ、まずいっ」
芳香は急いで駆け寄り二人に近づいた。
「あ、あの、すみません、それ」
声を掛けるより前に長身の男があろうことかシューズの匂いを嗅ぎだす。
「いっ!ちょっ!」
ひるんでいると男はシューズを薫樹に嗅ぐように促す。
「やっ、やだっ!」
男二人がうんうん頷きあっている。
たまらず芳香は「そ、それ私のです! 返してください!」と目の前に飛び出した。
「ああ、芳香。やっぱり君の靴か。こんな芳香をさせる足がまだ世の中にあるのかと思ってびっくりしていたところだ。ああ彼女は柏木芳香。僕のフィアンセです」
「いやあ、芳しい。素晴らしい香りだ。留学中によく食べたエポワスを思い出しますね」
「ああ、確かに。僕もよく食べた。やはり合わせるのは同郷のブルゴーニュ産のワインだろうか」
「ええ、でも日本酒も案外合うんですよ」
「ほう。今度その組み合わせで食べてみたいものだな」
二人は芳香のシューズを持ったまま、お構いなしでチーズについて話し合っている。
「ちょ、ちょっとあの、返してもらえませんか?」
「ああ、失礼、シンデレラさん」
男は屈んで芳香の裸足の足を掌に載せシューズを履かせようとする。
「え? あ、あの自分で――」
ぐらつく芳香を薫樹が支え、「履かせてもらうといい」と足を差し出すように言う。
「ええー?」
困惑する芳香に男は「うーん、これはこれは。香りもさることながら足の形も素晴らしい」と褒め始めた。
薫樹はそこにまた食いつく。
「ん? 形もいいのか」
「ええ、エジプト型で多い形ですが、指も爪も綺麗に伸びている。土踏まずもしっかりあって、踵も柔らかいな」
「ほう」
「さすがは匂宮様、素晴らしい恋人をお持ちですね」
薫樹はまんざらでもない様子だが、芳香は気が気ではない。夜で人気はさほどなくまばらだが、通りがかる人々はこの奇妙な三人組をチラチラ見ている。
「か、返し下さいっ」
「おっと、失礼。僕は女性の足が一番、女性らしさが出る美しいところだと思っているのでついつい」
「あっ、まずいっ」
芳香は急いで駆け寄り二人に近づいた。
「あ、あの、すみません、それ」
声を掛けるより前に長身の男があろうことかシューズの匂いを嗅ぎだす。
「いっ!ちょっ!」
ひるんでいると男はシューズを薫樹に嗅ぐように促す。
「やっ、やだっ!」
男二人がうんうん頷きあっている。
たまらず芳香は「そ、それ私のです! 返してください!」と目の前に飛び出した。
「ああ、芳香。やっぱり君の靴か。こんな芳香をさせる足がまだ世の中にあるのかと思ってびっくりしていたところだ。ああ彼女は柏木芳香。僕のフィアンセです」
「いやあ、芳しい。素晴らしい香りだ。留学中によく食べたエポワスを思い出しますね」
「ああ、確かに。僕もよく食べた。やはり合わせるのは同郷のブルゴーニュ産のワインだろうか」
「ええ、でも日本酒も案外合うんですよ」
「ほう。今度その組み合わせで食べてみたいものだな」
二人は芳香のシューズを持ったまま、お構いなしでチーズについて話し合っている。
「ちょ、ちょっとあの、返してもらえませんか?」
「ああ、失礼、シンデレラさん」
男は屈んで芳香の裸足の足を掌に載せシューズを履かせようとする。
「え? あ、あの自分で――」
ぐらつく芳香を薫樹が支え、「履かせてもらうといい」と足を差し出すように言う。
「ええー?」
困惑する芳香に男は「うーん、これはこれは。香りもさることながら足の形も素晴らしい」と褒め始めた。
薫樹はそこにまた食いつく。
「ん? 形もいいのか」
「ええ、エジプト型で多い形ですが、指も爪も綺麗に伸びている。土踏まずもしっかりあって、踵も柔らかいな」
「ほう」
「さすがは匂宮様、素晴らしい恋人をお持ちですね」
薫樹はまんざらでもない様子だが、芳香は気が気ではない。夜で人気はさほどなくまばらだが、通りがかる人々はこの奇妙な三人組をチラチラ見ている。
「か、返し下さいっ」
「おっと、失礼。僕は女性の足が一番、女性らしさが出る美しいところだと思っているのでついつい」