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哀色夜伽草紙
第4章 2人のカンケイ
「何であんなに琴莉は壱に冷たいんだ?」

「冷たいわけじゃありませんよ?」

嫌って冷たいわけではないし、寧ろ愛してる。でもあまり甘えすぎないようにしている……つもりだ。

「素っ気ないってかさ?それに、なんで結婚しねーの?」

砕いた口調なのは……まだ始業前だからだ。

翌朝、井坂課長は心から不思議そうに聞いてきたのだった。

「それは……」

「壱とお前ならなんの障害もねーだろ?ウチの時みたいなさ」

「……」

井坂課長と奥様は所謂駆け落ち婚に近い。
良家のお嬢様らしい奥様を許嫁から奪い取ったのが井坂課長だったのだ。

今では奥様の実家とも和解しているようだが、結婚するまでのハードルが高かったのだと壱くんが言っていた。

それに比べて私たちは確かにそのまま何の問題もないと思える関係だと私だってずっと思っていた。

けれど……


言い淀んでいると井坂課長が眉を下げた。

「すまん。人にはそれぞれ事情があるよな。でもなぁ壱はあんなにお前を大事にしてるから、二人は一緒になるのが幸せだと思うし……そうであって欲しいとオレは思うんだよ」

井坂課長は壱くんを大切に思ってくれているのだろうし、私の事も気にかけてくれてそれはとても嬉しい。

だけどこればかりは……


「考えてはいます。だけど今すぐにってわけにはいかないし、家の事は私たちだけでは決められないんです」

このまま否定しても事情を知らなければ私の戸惑いなど分かるはずもなく、かと言って事情を知らせるわけにもいかず 

誤魔化すように曖昧な答えを言った。

「そうか……まぁ考えておけよ?」

井坂課長は悪くない。
寧ろ普通の人の感覚で、そう言いたくなるのも分かるのだ。

二人は憂いのない恋人……

世間的にはそうなのだから。


「はい」

叶わないであろう事を掘り起こされたくないのだが……大人になると、そうもいかないのだろう。



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