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英語教師、今井陽子
第1章 万引き

「ダメだよ」

小さいが、鋭く耳に響く声とともに、ブラウスの脇をグッィと引かれてしまった。

「あっ、智之君…」
「いけないことでしょう?」

赤いリュックを肩に掛けた背の高い男の子、一昨年の教え子、高校2年生、青木智之(あおきともゆき)が困った顔をしていた。

「あっ、いや、違うの。カゴが、カゴが…」

中学の英語教師をしている今井(いまい)陽子(ようこ)は生理前になると気持ちが不安定になり、衝動的に万引きをしてしまうことがあった。今、ふと立ち寄ったスーパーで、その現場を見つかってしまった。心臓はドキドキ、顔は真っ青、「ま、間違えたの。お、お金…」と言い訳するにも、口が回らない。

だが、智之は「しっ!」と言って周りに目を配りながら、陽子のトートバッグからクッキーや乾電池などをそっと棚に戻していく。
彼は背丈が陽子よりも頭一つ大きいので、何をしているのか、他人からはよく見えない。

「あ、あの…」
「買い物はこれだけ?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、行こう」

おろおろする陽子の手をぎゅっと握ると、足元に置いたカゴを掴むと、レジに歩き出していた。

「はい、xxxx円です」

支払いを済ませてスーパーから出てからも、陽子は誰かが追いかけて来るのではとドキドキしていたが、店からワンブロック離れた角を曲ったところで、とうとう全身から力が抜けてしまった。
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