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女子高の坂道日記2019Oct~
第310章 散華──昭和22年9月1日──
…
木炭バスと言われても、想像もつかない。
ただ、故障が多かったとか。
それでも、その日の故障は最悪だった。
長崎市の北の入り口、打坂。馬を鞭で打たないと登らない坂という意味らしい。またの名を地獄坂。曲がりくねった道、片側は崖。現在では想像もつかないが、当時の地形図はまさにそうなっている。
そこで故障。
ハンドルもブレーキも効かない、最悪の事態。
バスはずるずると崖に向かって後退していく……。
若い車掌が飛び降りた。
近くの石をタイヤに噛ませ、輪止めとするが、三十余の乗客の重みのかかった車体はそれを乗り越えた。
ずるずると、ずるずると、崖へ。
しかし、奇跡は起きた。
何かに乗り上げてバスは止まった。
……もう、想像はつくのではないだろうか。降り立った乗客や運転手が見たものを。
横たわった車掌の体と、それに乗り上げたタイヤ……。
▼
「息はある!」
急報を受けた麓の営業所の職員は、軽トラックで現場に向かい、彼を荷台に載せた。
しかし、炎天下。その息は徐々に弱くなっていく。
……結局、助からなかった。
この勇敢な車掌の名は、鬼塚道男さん。享年、二十一。
▼
▼
こんな大切なことが長く人々の記憶から消えていた。
そのことがどうしても信じられない。
現場に地蔵尊が祀られ、顕彰碑が建ったのも時を経てからだった。
語る義務があるのではないか?
知った者には。
騙りがあってもいいのではないか?
顕彰のためならば。
インターネットはその手段となりえないのか?
今年も語る。
いつまでも語る。
間違いを恐れずに。
涙でぼやける液晶画面にすべてを託す。
今日も地蔵尊は安全と生活を見守っている。
生者が怠惰ではいられない。
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木炭バスと言われても、想像もつかない。
ただ、故障が多かったとか。
それでも、その日の故障は最悪だった。
長崎市の北の入り口、打坂。馬を鞭で打たないと登らない坂という意味らしい。またの名を地獄坂。曲がりくねった道、片側は崖。現在では想像もつかないが、当時の地形図はまさにそうなっている。
そこで故障。
ハンドルもブレーキも効かない、最悪の事態。
バスはずるずると崖に向かって後退していく……。
若い車掌が飛び降りた。
近くの石をタイヤに噛ませ、輪止めとするが、三十余の乗客の重みのかかった車体はそれを乗り越えた。
ずるずると、ずるずると、崖へ。
しかし、奇跡は起きた。
何かに乗り上げてバスは止まった。
……もう、想像はつくのではないだろうか。降り立った乗客や運転手が見たものを。
横たわった車掌の体と、それに乗り上げたタイヤ……。
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「息はある!」
急報を受けた麓の営業所の職員は、軽トラックで現場に向かい、彼を荷台に載せた。
しかし、炎天下。その息は徐々に弱くなっていく。
……結局、助からなかった。
この勇敢な車掌の名は、鬼塚道男さん。享年、二十一。
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こんな大切なことが長く人々の記憶から消えていた。
そのことがどうしても信じられない。
現場に地蔵尊が祀られ、顕彰碑が建ったのも時を経てからだった。
語る義務があるのではないか?
知った者には。
騙りがあってもいいのではないか?
顕彰のためならば。
インターネットはその手段となりえないのか?
今年も語る。
いつまでも語る。
間違いを恐れずに。
涙でぼやける液晶画面にすべてを託す。
今日も地蔵尊は安全と生活を見守っている。
生者が怠惰ではいられない。
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