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蘇州の夜啼鳥
第2章 かりそめの恋
…目覚めた時には日付けはとうに変わっていた。
清しい早朝の太陽が天蓋の中を眩しく照らし、激しい雨はすっかり止んでいた。
素肌に淫らな欲望の残滓を残しながら、暁蕾は片岡に縋り付くように眠っていた。
…白い肌…濃密な情事の跡を留め、まだ薄くれない色に染まっている乳房…その可憐な胸の尖りは早くも紅く熟し色づいている…。
ほっそりとした長い手足に残る片岡の口づけの跡…。
そんな暁蕾の淫蕩な姿でさえ、片岡には清らかにきらきらと輝き…さながら天使のように見える。

…俺の恋の病は重症だな…。
苦笑いする。
己れの胸板に広がる長く美しい絹糸のような黒髪を、優しく梳き上げる。

…昨夜の暁蕾との一夜が、甘く淫らな…けれど生々しい夢のように鮮やかに蘇る。

こんなにもセックスに溺れたのは初めてだった。
片岡は数限りなく女を抱いてきた。
全く褒められたことではないが、澄佳の他にも幾人も愛人を持ち、それぞれの女と性の交わりを繰り返してきた。
セックスは快楽を伴う社交の一種だとすら思っていた。

最愛の女性 澄佳とのセックスは、快楽より彼女の無垢で儚げな身体や風情、存在を己れのものにすることに必死だったような気がするのだ。
…澄佳との生活の後半は、真紘へ対する敵対心から彼女を征服し、隷属させることに執着していた。
…全く、愚かすぎる行為だった。
澄佳が自分から去って当然だ…。

…しかし、暁蕾とのセックスは、違った。
すべてのことから解放され、ただひたすらに暁蕾の身体に溺れて、愛した。
暁蕾の未熟だと思われていたその身体は、あっと言う間にしなやかに開花し、男を耽溺させ…そしてすべてを受け入れ、片岡を赦してくれたのだ。

身体の相性と言ってしまえばそれまでだが、心の相性が奇跡的に合致したのだと思う。
その痺れるような至福さから、我を忘れて何度も需めてしまったのだ…。

…こんな若い娘に…。
片岡は、その透き通るように白く凛と咲き誇る美しい花のような寝顔を見つめて呟く。
「…すっかり骨抜きだ…」

…暁蕾の長く濃い睫毛が微かに震え、ゆっくりと見開かれた。

そうして、その視線の先に片岡を認め、暁蕾は無邪気な子供のように無垢に笑ったのだ。






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