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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章
男は、以前に再開発の対象となった旭町で、強制立ち退きを横暴なやり方でされた、パン屋の主人だった。
その再開発と立ち退きを担当していたのは八神ホールディングスだ。
自分の店でパンを売ることが生きがいであった妻は、その後心労がたたり、亡くなったらしい。
これも先代である響の叔父がかった恨みが原因で起こった、事件だった。
「佐伯。お前は怪我してないのか?」
男が警察に付き添われながら救急車に乗る姿を見送っていた琉泉に、一ノ瀬が話しかける。
「あぁ、うん。平気」
特に痛みは感じない。
強いて言えば、回し蹴りした時の部分がまだ熱を持ってるくらいだ。
しかし、琉泉のことを心配そうに見る一ノ瀬の視線が、下の方で止まる。
「平気……じゃねぇだろ!!足!!」
「え?足……」
一ノ瀬の視線を辿って自分の右足を見てみると、スネのあたりに約5cmくらいの切り傷から、血がツーっと流れていた。
「うわっ」
「気づかなかったのかよ…。ほら、手当てしてやるから来い」
足から血が出るほどの切り傷。
ということは、必然的にスーツのパンツも切られたわけで。
ボロボロのスーツでは流石に歩き回ることができない。
どちらにしろ、早く中に入らなければと琉泉は考え、一ノ瀬の言葉に甘えようと後を追おうとした。
そのとき。
「キャッ!?」
琉泉の腕が強く掴まれ、そのまま後ろに引っ張られたと感じたときには、すでに身体が突然宙に浮いていた。
(え、私…誰かの肩に担がれてるの?)
ふわっと香るシトラスのコロン。
視界に入ったブランド物のスーツと、触れた場所から感じる引き締まった体。
それが誰なのかをすぐに理解し、必死にジタバタする。
「お、下ろしてください!!」
「怪我してるんだろ?ジタバタするな、落ちるぞ」
(怖…)
明らかに不機嫌な響の声音に、思わず口をつぐむ。

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