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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章
「しみるぞ」
消毒液に浸した脱脂綿を、ピンセットでつまみ傷口をなぞる。
「うぅっ…」
思ったより深く切られていたのだろうか。
痛い。
ただ、それ以上に琉泉の身体は熱を帯びていた。
響はなるべく痛くしないように優しく触れているのだろう。
だがそれは、逆に琉泉の感度を刺激してしまっている。
太ももに触れる、大きな手。
長い指。
スーツの生地越しに伝わる、柔らかな熱。
(やだ…)
なんとも言えない気持ちになる。
主人に対してこんな感情を持ってしまう自分に、嫌悪感すら覚える。
幸いと言うべきか、響は琉泉のそんな様子に気づいていなかった。
「ん。こんなもんか」
傷口にカットバンを貼り、スーツを元に戻す。
「ありがとう…」
「いや、いい。元はと言えば、俺のせいだしな」
「そんなこと…」
響は険しい顔を見せる。
「…痛かっただろ」
「えっ?そうでもないよ。途中まで気づかなかったし…」
琉泉は本心を言ったつもりだった。
だけど、響の綺麗な顔に深く刻まれた眉間のシワは、一向に戻らない。

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