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この想い、あなたに届くまで~遊廓(くるわ)の恋~
第1章 第一話【天つみ空に】 其の壱
だが、お逸は何も清五郎に刃向かうつもりなぞ、さらさらない。むしろ、清五郎は、すべてを失ったお逸にたった一人、救いの手を差しのべてくれた、いわば地獄に仏のような存在なのだ。感謝こそすれ、どうして敵愾心を抱いたりするものか。
が、清五郎が先刻、口にした科白は、たとえ恩人の言葉としても納得できるものではない。
お逸は十五になる。元々は江戸でも指折りの呉服太物問屋肥前屋の娘だった。元々はと言ったのは、既に肥前屋が店を畳んだからに他ならない。お逸の父仁左衛門は三十六の若さで数日前、急逝してしまった。死因は心ノ臓の発作である。生来、心臓を患っているわけでもなく、健康であることを誰よりも自負していた働き盛りの父の突然の死であった。
が、清五郎が先刻、口にした科白は、たとえ恩人の言葉としても納得できるものではない。
お逸は十五になる。元々は江戸でも指折りの呉服太物問屋肥前屋の娘だった。元々はと言ったのは、既に肥前屋が店を畳んだからに他ならない。お逸の父仁左衛門は三十六の若さで数日前、急逝してしまった。死因は心ノ臓の発作である。生来、心臓を患っているわけでもなく、健康であることを誰よりも自負していた働き盛りの父の突然の死であった。