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この想い、あなたに届くまで~遊廓(くるわ)の恋~
第1章 第一話【天つみ空に】 其の壱
お逸を〝お内儀さん〟と呼ぶからには、伊勢屋の奉公人であることに間違いはない。それにしては見かけぬ顔だと、お逸が小首を傾げた時、傍らから、おみねが耳打ちした。
「手代頭の真吉(しんきち)さんにございます」
そのひと言で、漸く思い出した。そう言えば、店の主だった奉公人を紹介された時、手代頭が真吉と名乗っていた。人眼に立たぬ、いかにも寡黙な男であったことだけは記憶している。まだ父を喪ったばかりのお逸は、その手代頭もただぼんやりと見ただけで、顔などはすぐに忘れてしまったのだけれど。
「危ないところを助かりました。ありがとう」
お逸が微笑んで礼を述べると、真吉はハッとした表情になり、次いで少し頬を赤らめた。
「手代頭の真吉(しんきち)さんにございます」
そのひと言で、漸く思い出した。そう言えば、店の主だった奉公人を紹介された時、手代頭が真吉と名乗っていた。人眼に立たぬ、いかにも寡黙な男であったことだけは記憶している。まだ父を喪ったばかりのお逸は、その手代頭もただぼんやりと見ただけで、顔などはすぐに忘れてしまったのだけれど。
「危ないところを助かりました。ありがとう」
お逸が微笑んで礼を述べると、真吉はハッとした表情になり、次いで少し頬を赤らめた。