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この想い、あなたに届くまで~遊廓(くるわ)の恋~
第2章 第一話【天つみ空に】 其の弐

お逸は微笑を浮かべたまま、視線を再び池に投げた。
「あの時、私、父を思い出していたのです」
「お父上―、肥前屋の旦那さまでいらっしゃいますね」
「ええ。今になってみれば、私はつくづく子どもだったと思います。父の苦労も知らず、ただ甘えるだけの世間知らずな子ども。もっとも、大切な父を喪った今も、そう変わりはありませんね。父は商いにとても忙しくしていて、なかなか二人だけでゆっくりと話せる時間など、ありませんでした。父がいなくなってみて初めて、もっと話をしておけば良かった、訊いてみたいことがあったと気付きました。真吉さん、父は見かけによらず、万葉集が好きだったんですよ」
「あの時、私、父を思い出していたのです」
「お父上―、肥前屋の旦那さまでいらっしゃいますね」
「ええ。今になってみれば、私はつくづく子どもだったと思います。父の苦労も知らず、ただ甘えるだけの世間知らずな子ども。もっとも、大切な父を喪った今も、そう変わりはありませんね。父は商いにとても忙しくしていて、なかなか二人だけでゆっくりと話せる時間など、ありませんでした。父がいなくなってみて初めて、もっと話をしておけば良かった、訊いてみたいことがあったと気付きました。真吉さん、父は見かけによらず、万葉集が好きだったんですよ」

