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森の中
第5章 5 山を下りて
女の母親と死んだ妻はきっと同じだろう。忘れていた胸の痛みを思い出し冬樹は女を放っておけずついて行った。
個室の前についた。『石井 君枝』と名札がかかっている。女はもう一度髪と呼吸を整えノックした。「どうぞ」中から張りのある声が聞こえる。
中に入ると岸本のざわついた広い相部屋と違い、狭いが静かな空間だ。君枝は、手の中で赤い小石を眺めたり、撫でたり、もてあそんでいる。
「どう?お母さん。調子は」
明るい声を出す女の一歩後ろで冬樹は頭を下げた。
「あら、どちらさま?」
ショートヘアーだが艶のある黒髪と黒っぽい瞳で好奇心を見せる君枝は想像していたよりも若々しく溌剌としていた。
おそらく五十代後半だろうがまだまだ現役といったふうだ。むしろ女よりも活気に満ちている。
「あ、あの……」
口ごもっている女の隣に立ち自己紹介をした。
「真田冬樹と申します。親しくお付き合いさせてもらっているものです」
「まあっ」
母親の君枝はますます明るい表情で冬樹をみた。
「そ、そうなの」
「ああ、この人なのね。最近、瑠美が綺麗になってきて。まあ、まあっ」
(るみ……か)お互いの名前を今初めて知った。瑠美は遠慮がちに冬樹を見た。
君枝は興奮して話し始めた。
「ああ、聡志さんによく似て……。ああ瑠美の父親です。同じね。山の香りがする」
何か思い出すように遠くをぼんやりと見つめて口を閉じた。瑠美はそんな母親の様子をじっと見つめている。
「今日はこれで帰ります。失礼します」
「わざわざありがとうございます。また良かったらお顔見せてください」
君枝は顔を綻ばせて言いベッドの上から頭をさげた。
「そこまで送ってくるわね」
瑠美はそう言い病室のドアを開け冬樹と一緒に外に出る。しばらく無言で歩き、さっき出くわした場所まで戻った。
個室の前についた。『石井 君枝』と名札がかかっている。女はもう一度髪と呼吸を整えノックした。「どうぞ」中から張りのある声が聞こえる。
中に入ると岸本のざわついた広い相部屋と違い、狭いが静かな空間だ。君枝は、手の中で赤い小石を眺めたり、撫でたり、もてあそんでいる。
「どう?お母さん。調子は」
明るい声を出す女の一歩後ろで冬樹は頭を下げた。
「あら、どちらさま?」
ショートヘアーだが艶のある黒髪と黒っぽい瞳で好奇心を見せる君枝は想像していたよりも若々しく溌剌としていた。
おそらく五十代後半だろうがまだまだ現役といったふうだ。むしろ女よりも活気に満ちている。
「あ、あの……」
口ごもっている女の隣に立ち自己紹介をした。
「真田冬樹と申します。親しくお付き合いさせてもらっているものです」
「まあっ」
母親の君枝はますます明るい表情で冬樹をみた。
「そ、そうなの」
「ああ、この人なのね。最近、瑠美が綺麗になってきて。まあ、まあっ」
(るみ……か)お互いの名前を今初めて知った。瑠美は遠慮がちに冬樹を見た。
君枝は興奮して話し始めた。
「ああ、聡志さんによく似て……。ああ瑠美の父親です。同じね。山の香りがする」
何か思い出すように遠くをぼんやりと見つめて口を閉じた。瑠美はそんな母親の様子をじっと見つめている。
「今日はこれで帰ります。失礼します」
「わざわざありがとうございます。また良かったらお顔見せてください」
君枝は顔を綻ばせて言いベッドの上から頭をさげた。
「そこまで送ってくるわね」
瑠美はそう言い病室のドアを開け冬樹と一緒に外に出る。しばらく無言で歩き、さっき出くわした場所まで戻った。