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降りしきる黄金の雫は
第4章 4 金木犀
 バスを降り、10分ほど歩くと家に着く。古くて小さいが一人で住むには十分だ。以前は大家さんの祖母が住んでいたが亡くなって何年も空き家だった。庭も3坪程度で何も生えていなかった。最近植えたばかりの咲かない金木犀があるだけだ。仕事で植木や植物を扱うことがあってもプライベートでは初めてかもしれない。玄関の引き戸を開け、誰もいない部屋に「ただいま」と声を掛けるが、やはり返ってこない。荷物を置き、裏の庭に出て金木犀を見に行った。

「ただいま」

誰か――この場合、何かか――に向けて初めて声を出す。少し木が揺れた気がして頭一つ分高い樹高を下から上まで眺める。

「ああ、そうだ」

中村さんに教えてもらったことを実践すべく、対峙するように金木犀に近づく。幹は手の中にすっぽり収まるくらい。樹齢は20年ちょっとだろうか。
近寄って抱きかかえるように幹に腕を回す。

「元気になって、花を咲かせておくれ」
呟いてしばらく立っていると確かに腕の中に温かいものを感じる気がする。

「これがそうかな?」

なんとなくでしか、感じないが納得いったので部屋に戻った。


「今日は疲れたなあー」

眠気が強いので早々に眠ることにする。金木犀を植えてからベッドの位置を庭の近くにし、少しカーテンを開け庭を眺められるようにした。
横たわるとあっという間に意識が途切れた。
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