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愛妻ネトラレ 久美子
第8章 お得意先への奉仕派遣(専属秘書)
屈託のない笑顔を初対面の異性に見せる、この野瀬優太朗という男。

ウェーブのかかった長く茶色の髪。
優しく、深い、海原ような器の大きさを感じさせる瞳。
爽やかに上がった口角と、暖かそうな唇の間から見える真っ白で綺麗な歯並び。

控えめに言って、イケメンの部類に女性10人中10人が選ぶであろう。
改めて、見るといい男であった。

『さ、行きましょう!アポに遅れちゃう!ま、僕のスケジュール組みがギリギリのせいなんだけど!』
ハハハッと豪快に笑いながら、久美子の手を握り足取りも軽く歩き始める野瀬。
久美子も、野瀬に遅れないように早足で共に歩いていくのだった。

ポルシェ718ボクスター
それが野瀬の愛車だった。
純白の高級外車のオープンカーに、車に詳しくない久美子でも、やんごとなき自動車であることは容易に理解できた。

『す、凄い車に乗ってるんですね』その助手席に腰掛け、久美子が野瀬に声をかけると、『いや~、ただ好きなだけですよ。車以外にお金をかけるものがないだけです』ハハハッと相変わらず快活な笑いをとばす。
久美子もつられてクスクスと笑う。

どうやら野瀬は周りに笑顔を伝播する才能が、自然に身についているらしい。

二人が打ち解け、仕事や趣味を含め様々な会話を交わし、お互いの事を知っていくのに、そう時間はかからなかった。

『凄いですね、野瀬さん』
久美子は心底、尊敬しているといった雰囲気で野瀬に話かける。

『いやだな~、止めて下さいよ、ホント』
苦笑いを浮かべ、本当に困惑した感じで応じる野瀬。
アポイントメントは様々なジャンルで多岐に渡り、その取材の先々で野瀬の見聞の広さ、知識の深さ、思考のユニークさを感じさせる言動が、久美子に野瀬への畏敬の念を抱かせたのであった。

最初の頃こそ、取材先で「アシスタント」を名乗っていた久美子だったが、先々で野瀬が「専属秘書」と紹介し直す為、いつしか自ら「野瀬の専属秘書」を名乗るようになった久美子。

『美人の秘書さんですね!』
そう言われ、久美子は悪い気はしなかったが、それ以上に言われて嬉しそうなのは、久美子本人よりデレデレとニヤケ照れる野瀬であった。

少年みたいな男性なのね。
野瀬に対する久美子の認識。
それは勿論ネガティブなものではなく、最もポジティブなものであるのは間違いなかった。
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