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籠の中の天使
第7章 知られたくない
新しく立て直されたという奉行所に向かう南斗の後を追えば峯岸君と達也君がついて来る。
「結局、五稜郭ってなんの為に造られたの?」
ガイドさんの説明を理解しなかった達也君が峯岸君に聞く。
「造った理由は開港した函館港を守る為だったらしいけど、すぐに新しい政府が出来たから旧い幕府との間で戦争に突入するんだ。その最後の戦いがあった場所が五稜郭って事だよ。」
峯岸君が丁寧に説明しても達也君は
「それって内戦?なんで日本人同士で戦争すんの?」
と質問を繰り返す。
「産業革命って習ったろ?」
「うんうん、世界が急速に発展したってやつでそ?」
「日本だけ島国で鎖国してたから産業革命がなかったわけ。そんで新しい政府は産業革命で発展した海外の文化を日本に取り入れようとしたけど…。」
「旧くて頭の硬い連中が反対して戦争になったって事?」
「そうそう、でも武器とか全然違うじゃん。大砲とか拳銃を相手に刀を振り回しても勝てる訳ないだろ?」
「それって戦争って言わずに虐殺って言わね?」
達也君の虐殺の言葉に足が竦む。
旧い歴史を守りたかった人の怨念が私の足に絡みつく。
「今はグローバルで平和な時代になって良かったよな。」
峯岸君が笑ってる。
平和な時代?
旧いままのあの街は今の新しい時代と戦う事すら出来ない街になってる。
戦っても五稜郭で最後を遂げた人々のように今の社会から虐殺されてしまうだけだ。
私の為に戦えなかったお父さんや持田先生、北斗さんの気持ちが私の心の中へ流れ込む。
南斗…。
今も私を守る為に独りで戦ってるのかもしれない。
五稜郭に漂う古き無念が私を縛り付けて動けなくなる。
息をする事すら許されず、亡霊を引き摺り、南斗の姿を探し求めて五稜郭を彷徨う私が居た。