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第1章 始めに～かつて「廃妃ユン氏」と呼ばれた実在の女性がいました。

朝鮮王朝時代、廃妃ユン氏と呼ばれた女性が実在しました。
名門両班の息女として成宗王の後宮に側室として入り、続けて先の二人の王妃が亡くなったため、三人目の王妃として国母の座についたひとです。

暗君、暴君として名高い燕山君の生母としても知られています。
韓流時代劇にハマって、そろそろ10年を過ぎました。
たくさんの時代劇を観てきましたが、初期に観た「王と私」は、この廃妃ユン氏がヒロインでした。
ユン氏ことユン・ソファ、成宗、内官（宦官）キム・チョソンの幼い日の出会いから、やがて彼らを見舞う大きな悲劇までを描いた歴史ドラマです。

従来、ユン氏は「驕慢で嫉妬深く、浪費家」であったため、国母としてふさわしくないと廃位の上、夫の王から毒刑を言い渡されました。
それが、ユン氏が処刑された理由です。
しかし、ドラマはユン氏を「陥れられ、『悪女』に仕立て上げられた悲劇の王妃」として描いており、これまでの歴史上の定説を根底から覆すものでした。
ユン氏を陥れられたのは、一説には成宗の母インス大妃だともいわれています。

「王と私」は、私の歴史観、その後に大きな影響を残しました。
同じ人物、出来事でも光の当て方で、まったく違うものになり得るということを教えてくれたのです。
長らくユン氏を主人公にした作品を書きたいと願ってきました。
この作品はユン氏と成宗をモチーフにしてはいますが、作者が独自に作り上げた、まったくの別のフィクションであり、物語です。
実際の歴史では、ユン氏の遺した忘れ形見である一人息子、燕山君もまた後に廃位されてしまいましたが、この物語では、人物たちが一体どのような軌跡を辿るのでしょうかー。