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BeLoved.
第42章 【紳士なんかじゃない】

「(?!)」

指先が頬を離れたと思った直後。
眉間にぞわりとしたものが走った。

これは…唇の感触。…口づけされたんだ。
それでも重い瞼と体は動かず、眉をひそめただけ。


「…なにやってんの?流星」

──いや、正確にはこの氷点下の声のおかげで
固まってしまった、が正しいな…きっと…

「俺の日だけど」
「んなもん判ってるよ。引き寄せられたの」

この部屋やべーから。と口付けた本人は言う。…やばい?やばいってなに?!ままままさか、この世のものならざるものが…?!

暗闇の中ひとり戦々恐々とするわたしの心中など知る由もない彼は。普段どおりの飄々とした口調で続けた。

「未結のにおいで充満してんだもん」


…なんですかそれ。におい…?


「うん、それはわかる。煽られるよね」

麗さまも頷いているし…。…煽られる??
…そういえば、彼が入院中にもそんな感じのことを言われたっけ。…わたしって、そんなにおかしな匂いなんだろうか…


「しかもこんな寝顔晒されたら」

彼もわたしに触れた。…頭を撫でてくれてる。
愛おしむような、慈しむような、優しい手で。
熟睡する(ごめんなさい、本当はしてないけど)わたしを起こさぬよう、ゆっくりと。

…気持ちいい。強張りかけた体から力が抜けていく。
──と思ったのも束の間。今度は頬にあのぞわりとした感触が走った。…またしても口付けられたんだ。

「ヘタ麗お前こそなにやってんだよ」

今度は彼から。

「未結可愛いもん」
「なにお前寝てる女襲う趣味あんの?怖っ」
「テメーもだろ」

二分前を思い出せボンクラ。やーい変態。飛び交う悪口。またしても始まってしまった小競り合い。…本当にこの人たちって…

「…ま、だからこの部屋あんま入りたくねぇんだよな」

理性は飛ぶし、しかも一度足を踏み入れたらなかなか出られない。麗さまはわたしの髪の毛先に指を絡め、自嘲するように呟いた。

「しっかし起きねーな、こいつ」

周りこんなうるせーのに。と。再び流星さま側から頬を突っつかれ。…いや、『起きて』はいるんです…ただ『起きる』タイミングを逃しだけで…うぅ

「疲れてんだな」
「流星、寝かせてやれよ。後でベッド連れてくから」

何だかんだで彼らは優しい。単純なわたしは絆される。

…この五分後には、思い知るんだけど。

ふたりは紳士なんかじゃないって。
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