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第44章 【彼の根底にあるもの。2】

｢……未結？｣

腕をすり抜け、とん、と床に降り立ったわたしは。彼の正面に立ち、向かい合った。

切れ長の瞳が見上げてくる。心做しか、不安の色を宿して。…大丈夫。貴方が思っているようなことじゃない。両手を伸ばし、胸元に彼の頭が収まるようにそっと抱きしめた。

そして…頭を撫でた。ゆっくり、ゆっくりと。

馬鹿にするなと突き放されたらそれはそれで構わない。でも…こうせずにはいられなかった。何故なのかは…わからないけど。

彼はとても優しいけど、怖い人。──わかってる。その気になればわたしのことなんて、肉体的にも精神的にも社会的にも、簡単に壊せることも。だけど。

｢……｣

微かな身動ぎ。反射的にびくついてしまったけど、伸びてきた彼の両手はわたしの背に回された。抱き返すかたちで。
よかった、不快に思われてはいなかった…安堵から小さく息をつき、彼を抱く腕にそっと力を込めた。

｢…お祝い、しましょうね。これからもずっと｣

『いらない』人なんかいないんだから。
ましてや、麗。…いらないわけがない。

だってわたしはあなたのことが好き。


そうよ。


『その日』につらい記憶が蘇るのなら
『その日』を塗り替えてしまえばいい。

一緒に、楽しい思いで。

『愛されたい』それだって…叶えあって。


導き出した単純さの集大成のような提案。…彼の肩がかすかに震えてる。…たぶんだけど、笑いを堪えてる…

｢…本当に？｣
｢はい！｣
｢…ずっと？｣
｢もちろん！｣

嘘偽りはない。…んだけど。頷くわたしから彼は離れていってしまった。…やっぱり頭まで撫でたのはやりすぎだったかな…今更ながら湧き出した焦りに、心臓をドギマギさせたけど。

立ち上がった彼は、さっきまで自分がされていたように、胸にわたしを抱き寄せた。そして言ってくれたのだ。｢ありがとう｣と。

｢愛してる、未結｣


──身体の深部がぞわりと震えたのは…きっと、優しいその言葉と、甘いキスのせい…だよね。


｢…離さないからね｣