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第2章 【彼ら】

「朝比奈さん…おばあ様には、生前大変お世話になりました。お通夜にもご葬儀にも参列できず、申し訳ありません。生憎年度末の繁忙期と重なりまして…本日も突然お伺いして、すみませんでした」

毛先に若干癖のある黒髪。 少し長めの前髪から垣間見える、髪と同じ真っ黒な瞳は三白眼。そしてその目付きは鋭い。
190近い長身に、長い手足。一見すると厳貌を体現したかのような『怖そう』な男の人。

彼の名前は、有栖川流星(ありすがわ りゅうせい)。

本人曰く「どこの三文ホストだよって感じだろー?でも本名なんだぜー。ウケんだろー?」。
……。そう。外見や雰囲気とは裏腹に、普段の彼はとても明朗な人なのだ。
(ちなみにさっき梁に額を打ち付けたのもこの彼。)
それを知っているだけに、低い声での静かで丁寧な挨拶に、心臓が跳ねた。


流星さまとの出会いは、2年前になる。
わたしが就職し、一番最初に派遣されたのが、彼のもとだった。

都内S区の高級住宅街。その中でも一際立派な日本家屋。それが流星さまの生家であり、住まい。
初めて訪れたときは、その厳かな雰囲気に圧倒されてしまったのを覚えている。

有栖川さまは、もともとはおばあちゃんが長年お勤めしていたおうち。
いずれわたしがその後を継げるように…との計らいもあり、入れて頂けたのだ。


そんな彼のお仕事は…社長さま。

株式会社有栖建設。通称有建(ありけん)。彼は27歳にして、そこの四代目社長。
業界三位の規模と実績を誇る大手ゼネコン、とおばあちゃんから聞かされていたけれど…
そういう世界に全く無知なわたしには、いまいちピンとこなかった。

けれど彼が、その評価に違わない仕事をしているということ。
公と私では別人なのだということは、理解していた。

とにかく彼は多忙だった。日付が変わってから帰宅し、日の出と共に出掛けていく。そんなことはざらだった。

休日なんてあってないようなもの。
体を壊しはしないかと心配するわたしに対し、彼は

「長の付く奴が骨折らないでどーすんだよ」

そう言って笑い、頭を撫でてくれたのだった。
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