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Q 強制受精で生まれる私
第11章 4.5度目
「…まだ山場を越えたばかりです。今は安静にして、回復に専念すること。今度は言うこと聞いてくれますよね?」

「あっ…」

 結局何も応えることができないまま、いつもの仮面を付けた姿に戻りながら先生が私から離れていく。さっきまで見せていた、心ゆらぐあの姿さえ偽りなのではないかと思ってしまうほど、その顔は爽やかな微笑に溢れている。この人はいつもこうやって脆い素顔を隠し続けているのだろうか。

 先生は私の上体を支えながらゆっくりとベットに寝かせ、ボタンがついている装置を私に握らせる。自爆ボタンみたいに見えるそれには、十字傷を負った扇形のマークと『呼出』と書いてある。いわゆるナースコールというやつだろうと察する。

「まだ体が思うように動かせないでしょうから、色々不都合があると思います。何かありましたらこのボタンを押して下さい。私は隣の別室にいますから、すぐに駆けつけますよ。」

「あの…こんな物無くてもー」

「お休みなさい。また、明日…」

 私の要望を遮ってまで先生はそう言うと、そそくさと部屋から退散していく。カチャリというドアの音と共に、夜の静けさが置いてきぼりにされた私を優しく包み込む。

 まだ思うように動かせないこの体では、寝るという選択肢以外残されていない。私は黙ってそれに従うも、心の中はもやもやで埋め尽くされて寝られそうになかった。

 一体先生は…あの人は、私のことをどう思っているのだろうか。

 散々酷いことをこの身にされた。今こうしてベットに横たわっているのだって、元はといえばあの人のせいだ。極悪非道の卑劣漢。そんなこと分かりきっているはずなのに、ハグの熱がまだ残るこの身体ではその観念が揺らいでいく。

 あの人にとって私は、何か特別な存在なのだろうか?
 それともやっぱり、ただのカラダ目当ての女なんだろうか?

 答えなんか見つかるはずもなく、考えるだけ無駄だと分かっていても歯止めが聞かない。そんな中、例え答えがどちらであろうと決して変わらぬ想いがひとつだけ、今の私には燻り続けていた。
 
『別室なんかにいないで、側にいて欲しかったな…』

 些か身勝手過ぎるその願いに、嘘偽りは無かった。


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