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Q 強制受精で生まれる私
第12章 4.9度目
「おはようございます。入ってもいいですか?」

「…どうぞ。」

 軽快なノック音を数回鳴らした後に、扉の奥の人物がそう尋ねてくる。二つ返事で許可すると、朝食を乗せた盆を抱えた先生が部屋に入ってくる。写真でしか見たことがない厚みを持つトースト、可愛らしいオムレツ、暖かみのある湯気を放つコンソメスープ…理想としての合格点を全て満たした朝食達が私の目の前に置かれる。

「…どうしました? そんな怪訝な顔して。まだお腹空いていませんでしたか?」

「いえ…いつも思うんですけど、これ貴方が作ってるんですよね?」

「私には専属のコックはおろか嫁もいませんからね。作るのはいつも自分ですよ。」

 そう。と適当な返事をしてから、再度目の前の豪勢な朝食に視線を戻す。あの整理のひとつもできない先生がこんな立派な物を作れるはずがない。それがここ四日間、毎朝続くのだからさすがに誰か他に作っている人がいるんじゃないかと疑わざるをえない。医者というものは毎日こんな豪華な物を食べないと気が済まないのだろうか。

「ささ、冷めない内に早く召し上がって下さい。」

「…あなたの分は?」

「あぁ…私は先に済ましてしまいました。お気になさらず、どうぞ。」

 今までの経験から毒味させた方がいいと毎度思いつつも、食欲をそそる芳香につい負けてしまう情けない私は、「いただきます。」と手を合わせて熱々のスープが入ったマグカップを手に取る。何故かは知らないけど、最初に手をつける物は汁物と相場が決まっている。

 口をつけ喉に流し込むと、熱いスープが食道をその熱で温めながら、滝のように胃に落下していく。身体にじんわりと染み渡る温かさと、舌に滑らかに広がる塩気に歓びを感じながら私は、あぁ自分は日本人なんだなと心底納得してしまう。

 むしむしと朝食を堪能する私をよそに、先生はいつもの病院新聞を読みながら朗らかな面持ちで佇んでいる。視線も声がけも一切ないものの、美味しそうに食べる姿を見せてしまうのは何だか気恥ずかしく、より目の前の食事に集中する。これも毎朝のことで、私がごちそうさまと言うまで先生は決して席を離れないのだ。何もしないくせに。
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