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Q 強制受精で生まれる私
第4章 1.9度目
『細胞診をするために膣口にクスコを挿入します。深呼吸して力を抜くように伝えて。』

 そう書かれたボードを見て、昨日のトラウマが甦り心臓が跳び跳ねそうになる。だけど患者が次に何されるのか説明してと目で訴えているため、何とか耐えて詳細に伝える。

 女性が不安そうに見えないカーテンの先を凝視する中、先生はクスコを挿入しキリキリと口を広げていく。あまり嫌がる素振りを見せない所から、入れる前に人肌程度に暖めていたのが伺える。どうやら私と違って本気で診察にあたっているようだ。

「では、今から膣部と子宮頸部の細胞を、このブラシで取ります。痛みはありませんし、短時間で終わりますので安心して下さい。」

 そう私が言い終わると先生はカーテン越しに手を伸ばして採取用のブラシを患者に見せてくる。綿棒で散々喘いだ私から見ればとても安心できそうに無いほど太く長いブラシを見て、女性はひっ!! と声を漏らし頭を横に振る。そんな私達にお構い無しに先生は「入れますよー深呼吸して、力を抜いてー」と言いながらギザギザの掘削機を奥に入れていく。棒が上下に傾くのを見た瞬間、断末魔に似た金切音が響くと思い、肩をすくめて身構える。

 だけどいつの間に終わったのか、すぐに先生がまたも私の腕を叩いて『すぐにこれをそこの液体に入れて!!』と書かれたボードを見せて、エタノールが入った容器を何度も指差す。私は慌てていつの間にか細胞が塗布されたスライドガラスを取り、容器に突っ込む。女性はまだ終わったことに気付かずに顔を反らし歯を食い縛っている。

「あの…もう終わりましたので、力を抜いても大丈夫ですよ?」

「…え、えぇ!! もう、終わったんですか!! 」

 先生の言う通り発狂する痛みも無く終わり、ホッとしている彼女を見て、私は何故か残念に思ってしまった。ブラシが傾いたあの時、身体の最奥を無機質に侵食されてしまう感覚を、どの様な表情で耐え忍ぶのか期待して待っていた自分が確かにそこにいた。その証拠に、更にきつく締め上げた私の股が滑りを帯びているのを感じる。

 おかしい…

 私、この人が悶える姿を、今か今かと待ち焦がれている。

 何の怨みもないはずなのに…
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