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聖愛執信、或いは心中サアカスと惑溺のグランギニョル
第7章 終幕
「時計塔の怨霊、夜な夜な響く謎の声、ねえ」
「ああ、時計塔」

 至極真面目な顔で上官が頷くのを、露崎はこれまた真面目な顔で見つめた。

 藤堂の手に握られた、『しかばね新聞弥生号』。一面に大きく踊る文字が、それであった。

 時計塔。

 この街において時計塔と云えば、ただのひとつだけ。天辺にいばら姫を秘した、あの赤煉瓦だけである。そこから夜な夜な謎の声、となれば穏やかではない。

 荊の扉の向こう側には、金の薔薇がただひとりきり、お人形を愛でて暮らしている。間違っても怨霊などいない。はずだ。たぶん。

 でも、あの少女なら、たとえ怨霊がいても、飼いならすか共生するかしそう。

 頭に浮かぶ不穏な想像に、露崎はそっと首を振った。流石に、そこまで人外ではない。と、思いたい。

 そういえばひと月とすこし前、彼女が自らの蒐集品に、黒髪のいとけない子どもを加えてから、露崎は彼女のもとを訪れていない。元よりさして頻繁に会っていたわけでもないが、これを見ると一抹の不安を感じてしまう。

 彼女の云う『お人形』の意味は、露崎には未だ分からない。分からないがゆえに、もしそれが最悪の方向に振り切れてしまっていたら、と想像することしかできぬ。

 あの少女は、頭の中の何かが壊れているのだろうし、心の奥のどこかが狂っているのだろう。だが、やさしく、慈しみにあふれた、あいらしい少女でもある。そんな娘が、果たして虐待などするだろうか。

「うわ、しそう」
「露崎」
「すごく想像できる」
「何がです?」

 目蓋の裏に鞭を持って高笑いする女帝の姿が浮かんでくるようで、露崎は思い切り顔を顰めた。何とも云えぬ顔をしている気づかわしげな視線を寄越す女を見遣り、努めて笑顔を見せる。あはは、大丈夫、なんでもないですよ。
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