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性愛執心、或いは劣情パレヰドと淫欲のコンキスタドール
第6章 ありあ
 女王のアリアで目が覚めた。

 ぬくもりのにおいのするリネンに頬を擦りつけて、あるはずの気配がないことに気づき、陽色は目蓋を持ち上げる。

 ぼうやりとした視界に被さるのは、幾重にも垂れ下がる黒いレエス。寝台を覆うその隙間から、僅かに白い光が漏れてくる。ささやかな夜明け。あまりに広い寝台の上にいるのは陽色だけだった。

 アリアは続いている。
 夜の女王のアリア。

 彼女がそう教えてくれた。己にしてはよく覚えていたものだと陽色は思う。駆け上がるような高音。たっぷりと恨みと悲しみと苦しみの染みた歌詞。

 さてしかし、今聞こえてくるアリアはいかにも伸びやかだった。異国の言葉は歯切れよく、声の響きも艶やかで生々しい。

 あのひとの歌声に違いなかった。

 それを陽色が間違える筈はない。いつも、いつでも、いっとう近くで聞いているのだから。

 彼女好みの黒いレエスを指先で持ち上げる。柔く乾いた感触が絡みついた。毛布からはみ出た裸の肩に、冷えた空気もまとわりついてくる。

 何か、見てはいけないものを覗き見るような心持ちがする。それでも陽色は躊躇わずにレエスの間から首を出した。
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