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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第6章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
―お前という女にはつくづく愛想が尽き果てたが、仮にも長い月日を共に歩いてきた仲だ。
 有喜菜の言葉に呼応するように、直輝の先刻の科白が聞こえてくる。まるで汚いものでも見るかのような視線で、吐き捨てるように言った夫。
 好きな男にそこまで悪し様に言われてまで、手に入れるほどの価値が本当にあるのだろうか。また、紗英子の胸に後悔に似た感情が渦巻き、胸がツキリと痛んだ。
 いいや、そんなはずはない。
 きっと大丈夫、すべてがうまくいく。
 紗英子は先刻から何度も言い聞かせた言葉を呪文のように自分に言い聞かせた。
 子どもさえ、生まれたら。
 私たちの赤ちゃんさえ、生まれたら。
 何もかもが順調にいき、すべてが丸くおさまるはずだ。
 無理にそう言い聞かせている中に、極度の緊張が解けて気が抜けたのか、紗英子はくずおれるようにその場に座り込んだ。
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