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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第8章 ♦RoundⅤ(覚醒)
 むしろ、代理母が自分であると彼に知られたくはない。彼の子を産むのは自分なのだという優越感は、一人静かに浸っていれば良い。愚かな自己満足だと言われれば、確かにそうだろうけれど、構いはしなかった。
 夫である直輝が否定的なら、恐らく紗英子は孤立無援に等しいはずである。当然ながら、代理出産の膨大な費用も自分一人で賄わなければならないだろう。自分と異なり、紗英子の実家は堅実な家庭で、父親は長年勤め上げた公務員だった。裕福ではないけれど、紗英子は実家を頼りにしようと思えば、できる立場にあった。
 そんなところも、もしかしたら、有喜菜が紗英子に隔てを置こうとする一因なのかもしれない。夫、頼りになる優しい両親、紗英子は自分にはないものを持っている。
 何故、そのことに紗英子が気づこうとしないのか、有喜菜は不思議でならなかった。たとえ子どもには恵まれずとも、少なくとも他人が羨むような夫を持ち、いまだに頼りに出来る両親がいる。手に入らない幸福を望むあまり、紗英子は身近にある幸せを見失ってしまったのだろうか。
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