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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第9章 ♦RoundⅥ(天使の舞い降りた日)♦
「おめでとうございます。妊娠されていますね」
 妊娠したのは有喜菜のはずなのに、医師は真っすぐ紗英子を見つめて祝福の言葉を述べた。それは全く不思議な気持ちであった。
 我が事であるはずなのに、我が事ではないような妙な心持ちだ。医師は次いで、有喜菜に向き直り微笑んだ。
「良かったですね。二個すべてか一個かはまだ判りかねますが、受精卵は無事に着床したようです。まだ早期なので薄い反応ですが、確かに妊娠反応が出ていますから、間違いないでしょう」
「あ―」
 紗英子は胸の底から熱いものが込み上げ、言葉にならなかった。
 赤ちゃん、私と直輝さんの赤ちゃん。やっと、やっとママのところに来てくれたのね。
 一滴の涙が紗英子の頬をすべり落ちていった。これのまでの長かった日々がフィルムを巻き戻すように脳裏を駆け抜けてゆく。
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