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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第10章 ♦RoundⅦ(再会)♦
 まず一度で成功することはないと聞いていたから安心していたのに、何と代理母はその一度目で妊娠した。むろん、すべて紗英子から聞かされた事後報告ではあったが。
 紗英子から決意を聞かされた当初、直輝はあくまでも精子は提供しないと主張した。しかし、紗英子が包丁を持ち出して自殺の真似事までするに及んで、これはもう引くに引けないところまできてしまったのだと悟った。
 あの時、直輝が承諾しなければ、紗英子は真似事どころではなく、本当に包丁で喉をかき切っていただろう。あの瞬間、妻はとうとう狂ってしまったのだと思わざるを得なかった。そして、静かな諦めが直輝の心の中にひろがっていった。思えば、あのときから、自分の心は妻から離れていったのだ。
 眼の前で死なれては堪らないから、一度だけという条件付きで承諾したのに、何ともはや運命とは皮肉なものだ。どこの誰とも知らぬ代理母はそのたったの一度で身籠もったとは。
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