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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第11章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
 直輝は絶句し、やりきれないといった様子で首を振る。
「だから、紗英子の告白を受け容れた。あいつには申し訳ないが、紗英子と付き合い始めたときの気持ちの中には半ば自棄のようなものもあった」
 ふいに、有喜菜の中に紗英子に対して〝自業自得〟という言葉が浮かんだが、もちろん、それを口にしないだけの分別はあった。
「俺は今でもお前を愛してる」
 いつしか〝君〟が〝お前〟になっているのも彼は気づかないようだ。
 そう、ずっと以前、直輝はいつも有喜菜を〝おまえ〟と呼んでいた。直輝の側にいたのは紗英子ではなくて、自分―有喜菜だったのである。
 あの頃、紗英子が直輝と有喜菜それぞれの互いを想い合う気持ちを知っていたのかどうかは判らない。また、自分たちを故意に引き裂こうと明確な意思を持って、直輝にそんな見え透いた嘘を告げたのかも今となっては判らなかった。
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