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Tears【涙】~神様のくれた赤ん坊~
第11章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
 めぐる想いに応えはない。
 ただ、これだけは一つ確かに言えることがあった。直輝の言うように、やはり間違いに気づいたならば、気づかないふりをしてそのまま同じ道を進むのではなく、勇気を出して振り出しに戻ってやり直すべきだ。
 それが、これ以上の不幸を重ねないための、せめてもの生きてゆくすべだろう。
 自分と直輝にも、そして、紗英子にも。
 この先、何が待ち受けているかは判らない。でも、とりあえず今の自分の役目は紗英子の子どもを生むこと。
 紗英子が何を犠牲にしても得たいと願った宝物。もしかしたら、この子が私の中に舞い降りてきたのも、天の神さまの意思なのかもしれない。恐らく、これが親友として彼女にしてあげられる最後のことになるだろう。
 有喜菜はひっそりと微笑んだ。自己満足でもない、混沌の中にひとすじの光を見出した彼女の横顔はどこか町の小さな教会で見かける、赤児のイエスを抱く聖母マリアにも似ていた。
 その時、有喜菜のお腹をまた、赤ん坊が元気よく蹴った。
 有喜菜の出産予定日まで、あと一ヶ月。
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