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月琴~つきのこと~
第1章 第一話【宵の月】 一
つい先刻まで小文は裏庭の桜の樹に登っていたのだ。父惣右衛門が眼にすれば、仰天することは間違いない。現在、信濃屋には次女の小文と三女の妙乃がいる。長女の結はたまに二人の娘たちを連れ顔を見せ、惣右衛門は孫たちの成長ぶりに眼を細めて歓んでいる。
結が嫁いだ佐野屋と信濃屋には昔からの因縁があり、結の結婚に際してもかなり揉めたのだ。だが、二人の仲が発覚した際、既に結の胎内には佐野屋藤次郎の子がおり、佐野屋の内儀つやが惣右衛門に対して頭を下げ結を嫁に欲しいと丁重に頼んだことにより、二人は晴れて祝言を挙げて夫婦となった。
結が嫁いだ佐野屋と信濃屋には昔からの因縁があり、結の結婚に際してもかなり揉めたのだ。だが、二人の仲が発覚した際、既に結の胎内には佐野屋藤次郎の子がおり、佐野屋の内儀つやが惣右衛門に対して頭を下げ結を嫁に欲しいと丁重に頼んだことにより、二人は晴れて祝言を挙げて夫婦となった。