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月琴~つきのこと~
第1章 第一話【宵の月】 一
小文はある夜、治助を人知れず呼び出した。場所は裏庭の桜の樹の下、二人が初めてめぐり逢ったところだ。小文の身の回りの世話を主にするおさよという若い女中に、治助を呼び出すように頼んだ。おさよは、手代の磯吉の女房である。小文が仲を取りもった磯吉とおさよは今年の正月早々、晴れて所帯を持った。
信濃屋の奉公人は大勢いるけれど、迂闊にこんなことを頼めば、すぐに惣右衛門の知るところとなってしまう。今、頼めるのは、おさよしかいなかった。