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月琴~つきのこと~
第1章 第一話【宵の月】 一
「判って下さい」
 治助が小文の身体を離し、小文は茫然とその場に立ち尽くす。治助はその場から逃れるように走り去った。
 小文は涙に濡れた眼で空を振り仰いだ。
 紫紺の空には細い月が頼りなげに浮かんでいる。いつしか淡い闇は完全に濃い漆黒へと塗り替えられていた。月明かりに照らされ、桜の花が発光したように輝いている。小文は涙を流しながら、月明かりに浮かぶ花を見つめていた。
花が満開になるまでには、今少しの刻(とき)が必要である。
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