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月琴~つきのこと~
第3章 第二話 【月琴~つきのこと~】 一 
     一

 月の殊の外美しい夜であった。妙乃(たえの)はひっそりと寝所を抜け出すと、猫のように足音も立てず、すべるように廊下を歩いた。閨(ねや)を出る時、傍の布団で眠る良人の寝息は聞こえなかった。果たして良人が本当に眠っているのかどうかは判らなかったけれど、妙乃は頓着しなかった。妙乃にとって良人―今宵祝言を挙げたばかりの男は赤の他人にすきず、これからもずっとその事実に変わりはないように思われたからだ。
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