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Memory of Night 2
第26章 承諾書

「ああ、晃くん。今帰りかい? 遅くまで大変だね、お疲れ様。宵くんの部屋、何号室かわからなくなっちゃって、今ハルちゃんに電話しようと思ってたところなんだ、ちょうどよかった」
オールバックに黒いスーツ。怖そうな見た目に似合わず、口許には柔らかな笑みが浮かぶ。
「この部屋で合ってますけど。わざわざ二人で説明に?」
「まあ、一応ね。店で事務仕事してたら、いつの間にか置いてかれちゃったけどね、ハルちゃんに」
頭をかき、呑気に笑う。だから一人でここにいるのか、と思う。
春加のこともあまり信用はしていないが、この男のことも同じく信用していない。
夜の世界で働く人間は、ましてやその店の経営に携わる人間には独特の雰囲気がある。
浮かべる表情や仕草、紡ぎ出される言葉。全てが偽りのように思えてならなかった。
晃はしばらく亮を見つめていた。同じく亮も、晃に視線を向けたままだ。
お互いを探り会うような微妙な沈黙が流れる中、先にそれを破ったのは晃だった。
「ーーこんなとこに突っ立ってても仕方ないですね。中へどうぞ」
「ありがとう。お邪魔します」
ドアを開け亮を玄関へと招き入れる晃に、彼はにっこりと柔和な笑みを浮かべてみせるのだった。

